永江俊一講師のTOEIC満点を取る方法
永江俊一
産業翻訳者(翻訳のサムライ)
東京大学経済学部卒
TOEIC990点、国連英検特A級、英検1級
目次
TOEIC990
はじめに|TOEIC
TOEICのテストは難しいようでやさしい。TOEIC990点攻略法
学校でTOEICを教えていると、TOEIC何点ですか?とよく聞かれます。
「990点です」と、答えると、たいてい「どうやったら990点取れるんですか?」と聞かれます。
「これと、これとやると、990点取れるんですよ。」と答えて、それを聞いた人はほぼ100%の人が次のTOEICの試験では見事990点取ってきます。それくらい、TOEICで990点取るのは容易です。
と、いえればいいのですが、物事もちろんそんなに簡単なものではありません。英語は、(言語すべてにいえることだと思いますが)「どうしたらいいんですか?」「なるほど、満点取れました。」とうまく進むほど簡単なものではありません。誤解を招かないように言い換えると、英語そのものはとても易しいのですが、学ぶのに時間がかかるのです。ただし、現在900点くらいの基礎力がある人なら、満点(990点)を取るのはとても簡単だと思います。
なぜ満点か、というと、特に理由はありませんが、字の如く、すべて満たしたということで、満点でないよりも、気持ちがいいです。また、企業の輸出、海外事業関連に従事するサラリーマンの方、英語講師、通訳者、翻訳者など英語の能力を主な条件とする職業に従事する方その他、自分の英語運用能力をアピールする上で、マーケティング上効果的です。
さて、ある程度の基礎力のある人のTOEICの 「満点獲得法」あるいは「990点攻略法」 ですが、
TOEICの満点獲得法
TOEICの満点獲得法は、
- 試験場に消しゴムを2つもっていく。
- 試験用紙が配られたら、試験官、CDプレーヤーから流れるディレクションを無視してリスニングの選択肢をひたすら読む。
この、ふたつです。けっこう単純な種明かしなので、疑念を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、これはほんとうです。ただの理論ではなく、実践に基づく事実です。
私は、一番最初にTOEICを受験したときは、960点でした。テスト結果が戻った時、その時の不足30点の原因はなにかとじっくり考えました。そして、原因は2つに絞られました。
1.リスニングの問題が読まれているときに消しゴムを落とし、それを探して拾っているうちに問題が進み、その後の問題数問の処置に乱れがでたこと。つまり、消しゴムを落としたときに読まれていた問題の回答が分からず、迷っているうちに、次の問題に進み、次の問題が迷っているうちに放送され始めたので、その問題も回答が分からない、という悪循環がしばらく続いたこと。
2.リスニングの最後のカテゴリの問題は、ひとつのレコーディングに対して(当時の問題では)2つあるいは3つほど質問があります。つまり、レコーディングが終わってから、質問のすべてに回答するまでにしばらく時間がかかり、最後の質問を読む頃には、レコーディングの内容をほぼ「忘れて」しまっていたこと。
この失敗に基づき、私が得た結論は上記2つ、すなわち、運悪く消しゴムが試験中に落っこちても、その消しゴムを切り捨て、試験に没念出来る態勢をとって試験に臨むこと(ひらたくいえば、消しゴムを2つ持っていくこと)、そして、レコーディングが始まる前に質問と、質問の回答の選択肢をすべて読んでおき、レコーディングが読まれている最中に回答してしまうこと、の2つでした。
第2回目のTOEIC試験(試験場はいずれも福岡会場)では、第1回目のTOEIC受験の失敗から得た2つの攻略法をひっさげ、みごと990点(満点)の結果がでました。
1つめの消しゴムを2つ持っていくことはかなり簡単に実行できることですが(ただし、消しゴムを2つ持って行っても実際に消しゴムを落としてしまった時にせこく消しゴムを拾っていては何にもなりません、消しゴムを切り捨てる勇気も備えていなければ役に立ちません、ご注意ください)、2つめのリスニングの質問と選択肢をすべて前もって読んでおくのは、少し、スキルが必要です)。
リスニング問題の選択肢を先に読むべし
リスニング問題の選択肢を前もって読んでおく
TOEICはリーディングのパート100問、リスニングのパート100問で構成されており、それぞれ495点のスコアで合計990点です。 他の検定試験等に比べてリスニングの配点が高い のです。TOEICの試験の目的は実務レベルでの英語の運用能力を測定するということになっていますが(注:筆者の解釈です)、英語の運用能力という場合、リーディングとリスニングだけで測れるのか、あるいはリーディングとリスニングの重要性は5分5分なのか、という点については論ずべきところもあるかもしれません。しかしリーディングとリスニングの配点が50%ずつにする合理性、正当性というような問題はまた別のイシューで明らかにここでの議論の対象ではありません。現実的な問題としてトーイックの総合点を上げるには リスニングのスコアを上げることが必要条件 だということです。そして、TOEICの試験においてリスニングのスコアを上げるために最も大切なことをひとつだけ上げよ、と言われたとしたら、私は「選択肢の先読みをすること」と躊躇なく答えます。リスニング問題においては、選択肢を先に読んでおく技術が断然最も重要です(パート1とパート2は適用範囲外)。さて、どうやったら選択肢を先に読んでおけるでしょうか?
試験用紙を配られると、すぐに閉じしろを破ってリスニング問題を読み始めるのは、ルール違反です。しかも、すぐに見破られるルール違反なので、見つかって退場させられるのがおちなので、この手は勧められません。
正当にTOEIC試験官が「始めてください」と言われてから、次の実際の写真の問題が読まれるまで、かなり時間があります。特に、Directionといって例文と回答方法の説明が最初にCDから流れる時間はかなりありますので、この時間は、次のリスニングの問題に進み、質問と選択肢を読みます。ここで、実際の問題が読まれる前に、この先取りの質問と選択肢の読みを切り上げて、写真の問題のレコーディングを漏らさず聞き始めなければなりません。
「でも、問題のディレクションを聞かないと回答の仕方が分からないじゃないのか。」という疑問をいだいた方は不正解。問題のディレクションを、試験場で「ふん、ふん。」なんて聞いているようでは、TOEIC受験生失格です。問題はレコーディングで流されるので、全国全会場、毎回同じです。流される内容はすでに決まっているので、1分1秒が貴重な試験場で改めて聞く必要はありません。これは、事前に「TOEIC公式問題集」などでレコーディングを聞いておきます。トーイックテスト当日は、実際の問題が読まれる前に挿入されているこのディレクションの時間を、問題と選択肢の読み込みに最大限使いましょう。
さて、ディレクションの度に問題と問題の選択肢を先取りして読んでおくと、かなりの時間がとれますが、なるべく選択肢を記憶しておいた方がいいので、一回だけでなく、 何度か読んでおくこと が肝要です。ここで、リスニング問題の選択肢を前もって十分に読んでおくスキルの重要なポイントになってくるのが、「速読」のスキルです。
選択肢を前もって読んでおくための速読スキル
福岡の学生に「本は好きですか?」と聞くと、「嫌いです。」と答える生徒がいます。「なぜ?」と聞くと、「おもしろくないから。」という人がいます。もちろん、中にはくだらない内容でほんとうにおもしろくない本もあるでしょうが、この答えは非論理的です。なぜなら、全般的に、本は出版するのに費用がかかりますから、基本的におもしろくない本は売っていないはずです。次に、どの本を読むかは自分で決めれるので、おもしろくない本を選ばなければいけないはずはなく、おもしろい本を選べばいいわけです。
そうすると、本が「おもしろくない」と思っているのは、おもしろくない読み方をしているということになります。 面白くない読み方とは、読むスピードが遅いのだと思います 。映画を見ていてもそうですし、会話をしていてもそうですが、話の進展が一定以上のスピードがない人との会話、スローな映画は退屈してしまいます。ですから、実際はおもしろい本を本人も面白く感じるには、早く読まなければいけません。
全く同じことが英語を読むことにもいえます。人間は基本的に好奇心旺盛なので、日本語であれ、英語であれ、本などあらゆる出版物を読むのは楽しいに決まっています。ところが、私は英語の本を読むのが大好き、という日本人の方に会ったことはあまりありません。そして、 英語が苦手という方は必ず読むスピードが極端に遅いです 。中には1分間のリーディングスピードが100単語以下という方もたくさんいらっしゃいます。このスピードで情報を拾っていたのでは、英語は読むに堪えないほど退屈極まりないことは目にみえています。
速く読み理解するスキル
TOEICに必要な速読とは?
世の中にはたくさんの速読法と称するテクニックがいろいろあり、講習などもたくさん行われていますが、ここでいう速読とは、これらのいわゆる「速読法」の特殊なテクニックを必要とするものではありません。本あるいは読み物が適切なテンポでおもしろく読める最低スピードをさします。
楽しめるためのリーディングスピード
それでは、どの程度のリーディングスピードだと、快適なのでしょう?
テンポの早い人もいれば、わりとゆっくりした人もいるのが世の中ですので、個人差があることはもちろんです。ここでは、一般的なはなし、ということで話を進めましょう。
英語を母国語とする人達の話すスピーキングスピードは、おそらくほぼ150単語(1分間)くらいだと思います。
さて、日本語で考えてみると、本を読むときに、声を出して読むと、明らかにリーディングスピードは低下します。すなわち、 リーディングスピードは、スピーキングスピードよりかなり早いのが普通 です。
おしゃべりというのは、楽しいものですが、このおしゃべりのペースに慣れている私たちにとって、これよりかなり遅いスピードで情報やコンセプトが伝えられたら、それは「遅い」と感じて当然です。だからこそ、日本語で本を読むときには話すスピードよりも早いテンポで本を読んでいるのです。
英語に話を戻しますと、上記のことから、楽しめるためのリーディングスピードは、最低1分間に200単語から300単語ということになります。単行本などは、横に11単語から13単語、縦に30行から35行くらいのものが多いので、ざっくり計算して1ページあたり、11×30=330単語です。単行本の1ページを1分少しで読むと快適に本が読めるということになりそうです。
リーディングスピードをあげるには?
少し話は脱線しますが、私の中学校の時の話です。家庭訪問だったと思いますが、数学の担任でもあった久保木先生という先生が、「永江くん、君は本を読みなさい。」と僕にいいました。僕は実はそれまで、本などほとんど読んだこともなく、一日中テレビばかり見ているテレビっ子でした。それで、何をよんでいいかもわからないまま、天神の本屋さんにいっては、夏目漱石だの、川端康成だの、森鴎外、阿部公房、小林多喜二、宮本百合子、五木寛之、井伏鱒二、太宰治、夏目漱石など適当に文庫本を買ってきては、読み始めました。
たとえば川端康成の雪国では、「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった」とか、多くの小説がそれなりに力の入った情景描写などから始まるのですが、ちっともおもしろくない。たいていの本が、10ページか20ページくらいまで読んだところの読みさしで、そのまま続きを読むのがおっくうになり、お蔵入りとなりました。実は、私の福岡の実家にはそうして無駄にした本の山が段ボール箱に何箱もたまった状態で朽ち果てています。
そういう状況が何年か続いたのち、ある日突然太宰治の短編集がとても面白いとおもいました。短編はその本質上起承転結がアップテンポに展開します。それで、おもしろいので太宰治の短編集をかたっぱし読んでいき読みつきると仕方ないので他の作者を探し、それ以降は、太宰治の他にも、森鴎外とか、新田次郎とか芥川龍之介だとか、他の作家もおもしろいと思って、どんどん小説を読みました。
今思えば、このとき僕の リーディングスピードが「読むに堪える」スピードに到達した のだと思います。
さて、話を英語に戻しますと、僕の英語のスタートは多くの僕の年代の方と同様、中学校1年生の「This is a pen.」から始まりました。当時はあまり発音は重視されておらず、CDを使う事も皆無でしたので、主に単語の暗記と文法の学習であったように思います。 高校になると、突然難しいテキストを渡されて、授業中に先生が音読され、先生が適当に生徒をあてて、復唱させて、先生が英語の意味を教えてくださるというのが基本的なスタイルでした。テキストは1日(50分授業)に1ページか2ページ進む程度でしたから、リーディングスピードは、計算上は5単語、ということになります。吉岡先生という先生で、先生は好きでしたが、テキストは「おもしろく」ありませんでした。すでに述べた言い方でいえば、リーディングスピードがまだ読むに堪えるスピードになっていませんでした。
これではおもしろくありませんので、おもしろそうな英語の本を買いに行こうと思い、高校生のころ福岡市天神の丸善という本屋に行き、題がおもしろいというだけの理由で「Baker’s dozen」という本を選びました。ウィリアム・サマーセット・モームという作家の短編集です。(ちなみにベーカーズ・ダズン、すなわち「パン屋の1ダース」とは13個のことをいいます。昔の、今でもかもしれませんが、イギリスのパン屋では1ダースください、といわれると、1個おまけをして13個くれていたものなのでしょう)
この本は、今でも私の愛読書になっており、何十回も繰り返して読んだほどおもしろいのですが(ベーカーズダズンは短編集ですが、その中でもthe letterという物語は何度か映画化されている名作です。話はそれますがこの短編集の中でもThe Fall of Bernard Edward, バーナードエドワードの堕落という物語は心に残る名作です。ぜひお奨めします)、しかしその当時は、読んでは、辞書を引き、読んでは辞書をひき、という状態で、何十時間かかけてなんとかいくつかの短編を読んだあとは、かつての日本語の小説を読み始めた時と同じように途中で投げ出してしまいました。その後、英語雑誌を申込し、2週間に1度雑誌(タイム)が送られてきましたが、とても歯が立たず、これも1ページも読まないまま、完全に放置されました。
こういうわけで、自分の英語の読みものは失敗した一方、大学の入学試験用に英文読解の本を1冊買い、「くじらが魚でないのは、馬が魚でないのと同様である」とかの入試英語を1年間勉強しました。
大学では全く英語とは無縁の生活となり、ほとんど英語にふれない学生生活を満喫しました。
就職をすると、いきなり英語の必要性を痛感させられました。僕が取引先に書いた英文レターは「こんなもの全く使い物にならん」とばかりに上司から真っ赤に添削されて帰ってきます。それをタイプライターさんにまわすのですが、僕自身はタイプが打てない情けない状態でしたので、会社が終わってからひそかにタイプの練習をしたものです。
就職して2年目ころに、学生時代にあるスポーツの練習のしすぎで故障をしていた不調が再来し、2、3週間検査入院をすることになりました。入院すると、朝6時に起きて、決まった時間に朝ごはんを食べ、昼ごはんを食べ、夜ごはんを食べ、9時に消灯、しかすることはありません。看護婦さんと話したり、となりの入院患者と話したりはそれなりに楽しいのですが、やはり時間はあまります。そこで、おしゃべりとごはんを食べている時以外は、英語の新聞を読むことにしました。今回は高校の時の経験からすこし賢くなっていたので、最初は読売ウイークリーという超簡単な週間の新聞から始め、ウォームアップをしたあと、Yomiuri Daily、そしてThe Japan Times に移りました。今はどうか知りませんが、その当時は読売デイリーの方がはるかに平易な英語で書いてありました。
退院するころには、新聞がおもしろいと思いました。このとき、英語での僕のリーディングスピードがなんとか「読むに堪える」スピードのボーダーラインになったようです。そのあと、高校の時に買ったベーカーダズン、そしてとても面白かったのでサマーセットモームの他の短編集、月と6ペンス、ヒューマンボンデッジなど長編を読んで彼の著作をすべて読みつくした後は、HGウェルズのアニマルファーム、1984、ヘミングウェイの老人と海、誰がために鐘は鳴る、サンテグジュペリの星の王子様、サリンジャーのライ麦畑で捕まえて、など本屋でパラパラとめくって自分の単語力で十分に読めると思った作者の小説をたくさん読みました(これらの作者は単語2000単語レベルの低ボキャ学生にも十分に読める平易な英語だけで表現するすぐれた作者です)。
少し長くなりましたが、上記の経験に失敗も含めて、 英語のリーディングスピードをあげるためのヒント が含まれていると思うので、あえて紹介しました。ヒントとは、
- ボキャブラリーを増やすには、英文を読んで読んで読みまくるのが最も効果的。
- そして、読んで読んで読みまくるには、リーディングスピードを快適スピードまであげなければいけない。
- 快適スピードにリーディングスピードをあげるには、自分のその時点での英語力で楽々読める素材を選ばなければいけない。(ここは、私は回り道をしたところです)
つまり、リーディングスピードを上げるには、上記の3番に集約してきます。 「自分の単語力でスラスラ読める素材を選ぶ」 ということです。これが肝要の部分。そして次に、この素材を「1分300単語」で読む意識的な努力を重ねることです。素材としては小説が最適だと思いますが、 スキャニングのテクニックを身につけるには英字新聞が効果がある と思います。新聞は量が多いのに毎日攻めてきますので必要なところだけ読む読み方をいやおうなくするようになります。
リーディングスピードエクササイズ法
皆さんは簡単に歩くことも、走ることもできると思います。「走る」という行為を考えてみましょう。「歩く」練習を毎日毎日繰り返して、突然「走る」ことができるようになるでしょうか?答えはノーだと思います。よし、走るぞ、という意識が必要です。リーディングも、これに似ているところがあると思います。英文を1分50単語で読む習慣をつけた人は、スピードをあげようという「意識」を持ちこまなければ、いくら多量に英文を読んでもいつまでたってもリーディングスピードは1分50単語のままです。そして、ここが 一番問題のところ ですが、1分50単語のリーディングスピードのままでは、いずれは読むことをやめてしまいます。人間はそんな退屈には耐えられないからです。
そこで、私がよく勧めるエクササイズ法は次のような方法です。
まず、その方のボキャブラリーを聞きます。「英語の単語をいくつ知ってますか?」です。結構難しい質問です。指針としていえば、ざっというと、中学校卒業までの3年間で1,000単語、高校卒業までの3年間でプラス3,000単語の合計4,000単語というのがカリキュラム上の単語数ではないでしょうか。そして、このボキャブラリーがあれば一般的な英語の読みもので読めないものはほとんどない十分な語彙数です。
上でカリキュラム上の、といったのは、個人差が大きいのですが実際はこれよりはるかに少ないことが多いからです。そこで、仮にその方が「3,000くらいだと思います」というとすると、3,000のボキャブラリーで書かれた文庫本に目を通していただきます。「よく知らない単語は1ページ目に何個ありますか?」と聞きます。ここで仮に「20個あります」という回答だと、その方のボキャブラリーは実際ははるかにもっと少ないことが分かります。これを繰り返して、仮にボキャブラリー1,000単語で書かれた本で「知らない単語はほとんどありません。」という答えがでてくるとします。この方のボキャブラリーは1,500くらいでしょう。
そこで、この本を10分間ほど読んでもらいます。そして読んだ単語数を数えてもらいます。(単語数の数え方は、そのページの適当な部分3行の単語数を数え、合計数を3で割ります。それが1行の平均的単語数です。それに行数をかけて1ページの平均単語数をだします)そして読んだ単語数を10で割ると1分間のリーディングスピードがでます。仮に、50単語としましょう。数字だけ見るとかなり遅いように感じるかもしれませんが、これより遅い人もたくさんいます。そこで、「あなたの今の読み方では1分間50単語なので1分間100単語にしてください。」といいます。そして、 ここが肝心なのですが、同じ場所をもう一度読んでもらいます 。今回は先ほど読んだところなのでなじみがあり、早く読もうと思えば、早く読んでしまう事ができます。1回目に読んだところまで読んだ時点で読みをやめ、時間を計測します。普通、1回目に10分かかった所が2回目は7分とかに短縮されます。仮に7分だとすると、3割スピードがあがりましたので、もう一度さらに3割縮めてください、というと、5分になります。1分間100単語です。簡単に半分に縮まります。もちろん、ここでリーディングスピードが縮まったのは、すでに読んだことがある文章だからなのですが、肝心なことは、そのスピードで動くことを「目が覚えた」という点です。このスピードで目を動かす練習を繰り返してその人の「標準」リーディングスピードを1分間100単語に定着させます。まだまだ遅いですが、1分間300単語の快適スピードに一歩近づいたことになります。
この練習で大切な点は、読んでもらう素材は その方の語彙数よりもはるかに少ないボキャブラリで書かれた平易な英文を選ぶこと です。
TOEICのためのスキャニング法
パソコンとかで画像その他を取り込むときに「scan」という言葉を使いますが、このイメージで、例えば1ページの量の文章全体をさーっと見て、重要な情報、探している情報だけを速やかに読み取る技術をスキャニングということがあります。1時間で本が読める、とかの様々な速読法はなんらかのスキャニング、斜め読みのテクニックを磨くものだと思います。
TOEICの試験では、英語を母国語としない受験者にとってはかなりの分量ですが、先のところで述べたように、 特殊な速読法を要求するほどの分量ではありません 。むしろ、1分間300単語のリーディングスピードで読んで回答していけば、時間がありあまるほどです(1分間200単語のリーディングスピード以上であればパート7を含めTOEICのリーディングテストは100問すべて解答できると思います)。
したがって、全文章をじっくり読んでいただいていいのですが、話し言葉と同程度のリーディングスピードにするには、話し言葉で用いられる「時間の節約」はある程度したほうがリーディングスピードはあがります。大きなものを2つあげましょう。
1)前置詞、冠詞、接続詞、重要性のない形容詞、副詞は読み飛ばす。
話し言葉では、名詞、動詞等は強く発音されますが、前置詞などはちいさな音ですばやく発音されます。読む場合も、重要性の少ない品詞、文章の大意に影響を与えない単語はさっととおりすぎることができます。
例えば、go to the church という句では、goといえばtoが続くのはほぼ分かり切っており、冠詞も重要な役割は果たしますがほとんどの場合は自明です。したがって、これはgo church さえ読めば用が足ります。
Because I was very sick early morning yesterday, I didn’t go to the church. というセンテンスでは、I sick yesterday, not go church だけに注目すれば意味はほとんど分かります。
2)重複された詞は読み飛ばす。
会話では、文脈から言わなくても自明である言葉は省略することが多いです。
Do you know? No, I don’t know というやりとりの答えの部分では、会話では、don’t know だけであったり、No だけであったりすることが多いでしょう。読む場合も、No だけ見ればあとはさっと読み飛ばせばいいことが分かります。
リーディングスピードをあげることは理解を深めること
リーディングエクササイズ法で紹介した練習をしてもらうと必ず聞かれる質問が、「早く読めば意味が分からなくてもいいのですか?」という質問です。
そこには、読むスピードを早めることと、書いてあることを理解することとの間には両立しないトレードオフの関係があるという漠然とした前提があります。ところがこの前提は正しいでしょうか?
確かに、静止的な状況、すなわち、その方の遅い読み方しかできていない時点で強制的に早く読めば一時的にはそのような関係が言えるかもしれません。しかし、そこに時間というディメンションを入れて、動的な比較をすれば、 リーディングスピードがあがれば、理解力も上がります 。人間は一時記憶にある情報はすごいスピードで忘れていきます。情報のインプットが早ければ、すべてのコンセプトをつかむまでその情報を保持することができますが、 遅すぎると最後の方の情報を得る頃には最初の方の情報を忘れてしまう 、ということになります。リーディングスピードを上げることは、内容の理解を犠牲にすることではなくて、理解を深めることにつながります。
「ゆっくり読めば英語の文章がわかる」という根拠のない妄想は捨ててしまいましょう。
語彙力をあげるべし
TOEICのためのボキャブラリ増強法
さて、上記のリーディングスピードエクササイズで時々エクササイズすることを続けると次第にリーディングスピードはアップしてきます。僕が英語を学習していたころは、マテリアルが少なくて、上記のようにずいぶんと寄り道をしました。ある程度スピードがついてからも、ストレスなく読める本を選ぶには本屋でいろいろ目を通すなどしてずいぶん苦労しましたが、今は、ペンギンやオックスフォードなど主な文庫本出版社はどこも英語学習者用の「ラダーシリーズ」という本がでており、自分のボキャブラリに合わせてどんどん読むことができます。現在勉強中の方はとても恵まれています。このラダーシリーズというのは、たとえば1000単語シリーズであれば、基本単語1000語だけを使用していろいろな小説などをリライトしたすぐれものです。1200単語、1500単語、2000単語、など各シリーズがありますので、ボキャブラリの増大につれて、階段を上るようにより高度な英文に無理なく慣れていくことができます。
さて、スピードはこれでよしとして、ボキャブラリーはどうでしょうか? 英語の力はすなわちボキャブラリの数 といっても過言ではありません。ボキャブラリを増やさなければいけません。
ボキャブラリを増やすには、多くの方がぱっと思いつくのは単語集、辞書、などだと思います。
辞書は使うな!
主張することを強くイメージするために、逆説的なことをいったり、あっと驚くことをいったりするのが時に効果的です。そこで、私が提案するのは、「辞書をひくな」です。実は私は辞書が大好きなので、こういうのは心苦しいのですが、まずは、「辞書をひかない」というのを実践しましょう。
なぜ辞書をひかないかというと、2つの大きな理由があります。
一番大きい理由は、 「スピード」 です。辞書は、リーディングスピードを徹底的に落とします。どんなに辞書を早く引いても、何十秒かはかかります。例えば10分間のリーディングで、5回辞書を引いたとしましょう。1回辞書を引くと1分かかるとすると、5回で5分かかります。この間はもちろん、リーディングは停止します。仮にあなたのリーディングスピードが300単語だとしても、辞書をひくと10分間で1500単語しか進めません。平均すると、150単語になります。これでは遅すぎるのです。
2番目の理由は、 辞書をひくことは無駄 だからです。無駄の理由は、辞書を引こうとするその単語は、マニアックな単語で今のあなたには別に覚える必要がない単語かもしれません。2度と現れない単語かもしれません。こんな単語に時間を浪費するのは無駄です。そして、無駄なもうひとつの理由は、辞書をひかなくても単語の意味はいずれは分かるからです。
例えば、今日の新聞の見出しに
Land prices surged before cooling in 2007
とあります。surged は surge の過去形ですが、どういう意味でしょうか?
あなたがこの意味を知らないとしましょう。この単語の意味は知らないけれども、その他の単語、すなわち、
land、price、before、cooling、in
の意味は知っているとしましょう。土地価格は2007年に冷え込む前に「surge」した、という流れです。
また、みなさんが背景知識として長い長い土地価格の下落傾向が最近どうやら変わったらしい、ということをぼんやりとでも知っていたらなお都合がいいのですが、普通に想像すると、surgeというのは、上昇する、上る、という意味らしい、しかも、急激に上がるという意味じゃないか、という想像が出来るわけです。こういう想像を英語では「inference」と呼びます。
推定から確信に
自分の手元にあるデータをもとに合理的な推定をするのがinferenceですが、急いては事を仕損じる、といいます。推定はあくまでも推定です。上の例では、surgeの意味は本当は、あっとおどろくような意味かもしれません。そこで、ここではまだ、「surgeの意味は急激に上がるという意味の可能性が強い」という段階です。また、surgeという単語自体あと3年くらいはまったく目にしないどうでもいい単語かもしれません。その場合は忘れ去っていいわけです。今のところとりあえず、頭のどこかにsurgeという 単語の意味が「もやっと」残れば十分 です。
もしsurgeという単語がよく使われる重要な単語であれば、そのあともいろいろ形を変えて登場します。
Blood surged to his face.
The surge crushed against the rocky shore.
Troop surge in Iraq
何度かsurgeの単語をいろいろなコンテクストで見ることを続けると、surgeの単語の定義が頭の中で自然と固まってきます。それが、あなたの新しいボキャブラリになります。
英日対比の単語帳は焼き捨てるべし
ボキャブラリを増やすには英語の単語に日本語の訳が対比された単語帳を使ったりすることが一般的です。これは勉強方法としてある程度しかたのないことかもしれませんが、この単語の暗記の長年の繰り返しが多くの英語学習者の伸びを止めているような気がします。単語のレベルで英語と日本語がセットになっているので、例えば英語を話そうとしたときに、頭の中でまず日本語で概念が作り出されますから、それを単語レベルで英語に変えていこうとします。すると、すぐにセットになった英語がでてこないものが現れ、その英語の単語にこだわっているうちに、発話の流れが止まってしまいます。あるいはその単語を探し出そうとするストレスで顔がまじ顔になりなごやかな会話が途切れてしまう原因になったりします。
いっそのこと英語の意味を日本語にするのをやめてしまったらどうでしょうか。そのためには、中学校や高校で(特に中学校でしょうか)「次の英語を日本語に直しなさい」というアプローチの問題をだす習慣を撲滅しないといけませんけれど。
日本語と英語はもともと違う国で独自に発明、発達、使用されてきたわけですから、そもそもある英語の単語に対応する日本語なんてあるはずがありません。次の英語を日本語に直しなさい、と聞かれたらそれはありませんと堂々と開き直ればいいです(そうはいかない現実もあるでしょうが少なくとも理屈上は)。
例えば、availableという単語は英語でよく使用されますが、これをおきまりで「利用できる」と覚えたのではなかなか実用性がありません。日本語から起こした英語ではavailableという非常に便利な単語は全く使用されなくなります。availableの意味はavailableで知っておかないと意味がない。
そうやって、日本語に直しなさい、と聞かれても日本語に直せる英単語は全くないけれども、頭の中でどういう意味でどのように使用されるかは知ってるよという単語が5000語とか10000万語とかあればいいのではと思います。
ちなみに私が英語学習者に配る資料のひとつであるボキャブラリ促進単語帳には英語と例文しかありません。余計な情報量(日本語訳)が減るので利用者は同じ時間で2倍多くの単語を進めることができます。すると次の真理が見えてきます。※英語の単語の意味を日本語で知る必要はほんとうはなかった!
日本語で英語の単語を覚えれば覚えるほど英語はスピーキングもライティングも間違いなく遅くなります。これでは骨折り損のくたびれ儲けです。
単語語彙数を増やす素材の選び方
さきほど、リーディングスピードを上げるための素材の選び方として、知らない単語のない「簡単な」英文の本を選ぶのが肝要と申しましたが、これをいくら続けても、ボキャブラリは増えません。知っている単語しか出てこないので、知っている単語を確認、定着させることしかできません。では、ボキャブラリーを増やすにはどのような本を選べばいいかというと、ざっと読んで見て 知らない単語が1ページに1~5単語くらい出てくる程度の難易度 のものを目安にしましょう。もちろんこれも個人差によるので、一般的なはなし、ということで話を進めましょう。 1ページに5単語以上知らない単語がでてくる本は、今の自分の実力には難しすぎると、あきらめてください。
5単語以上知らない単語がでてくる読みものには、次のような問題があります。
まず第一に、ボキャブラリーは上記に説明したように、inferenceで拡大していきますが、知らない単語が多すぎると、inferenceができなくなります。inferenceするには手掛かりが多いほど正しい推定が出来るのですが、手掛かりが減ると、inferenceではなく、guess(あてずっぽ)になってきます。これではボキャブリが増えませんし、ことによっては誤った定義で覚えてしまう可能性もあります。
アタッククイズ、というテレビ番組をご存知でしょうか?正解をしていくと、パネルが裏返しになり、裏返しになったところだけ画像が見えてきます。すべて裏返しになれば、もちろんすべて見えるのですが、正解をしたところだけしか画像が見えません。目的は、その画像が何の画像かをあてることです。ゲームの回答者がこの画像が何であるかを正解するのに、すべての画像が裏返しになるまで待つ必要はありません。見えないところは、推測するからです。ある程度のパネルが裏返ったところでクイズ回答者は見事にその画像が何の画像かあてて、賞品をもらいます。このとき、正解を出すには、一個でも多くのパネルを裏返しにしたほうが正解の可能性は高まります。知らない単語の意味を推定する場合も、これと同様で、 正しい推定をするには十分なてがかりが必要 です。上のsurgeの例では、もし、surge以外にcoolingという単語の意味も知らないとしたら、surgeの意味がinferenceできるでしょうか?
土地価格は2007年にcooling前に「surge」した、という流れです。これではお手上げです。
次に、知らない単語が頻繁に出てくると、ストレスがかかり、リーディングスピードが極端に遅くなります。リーディングスピードが遅いことは、それ自体問題なのですが、 最も致命的なのは、テンポが遅いとおもしろくなくなる ので、いやになり、読むことを投げ出してしまうことです。これが一番の問題です。すべてのことと同様に、続けることが肝心ですので、知らない単語が頻出する読みものだけは絶対に避けましょう。
「新しい単語がたった1から5単語の読みものでほんとに語彙数が増えるのでしょうか?」という声が聞こえてきそうですが、これで十分です。
仮に1ページに3単語ずつ知らない単語が出てきて、正しく単語の意味を推定しているとしましょう。1冊200ページの本だとすると、1冊の中に出てくる単語数は、66,000単語です。300単語のリーディングスピードで読むとすると、約3時間半で読み終わります。議論のために1ページに3単語づつ知らない単語が1回づつ出てきたとすると、推定した単語数は、600単語です。推定を何回続ければ記憶として定着するかは個人差がありますが、仮に10回繰り返すことが必要とすると、600÷10=60、すなわち、 1回の読書で平均約60単語は覚えることができます 。10冊読めば、600単語、50冊読めば3000単語です。今のあなたのボキャブラリが1500単語として、これに3000単語が加われば、ほぼ英検の1級合格レベルにまで到達します。50冊読むには、わずか175時間です。毎日2時間くらいづつ読んでいけば、87日で到達しますので、毎日やればわずか3カ月で英検準2級レベルの単語力から英検1級の単語力に成長します。
これを学校の授業のスピード、たとえば1分間5単語で進めると、300÷5=60より、3ヶ月X60=180ヶ月。約15年間かかります。想像にかたくないと思いますが、15年の間に上記で仮定したように同じ単語が10回出てきたとすると、もう一度同じ知らない単語に出くわすのに平均1.5年間かかり、これではいつまでたっても新しい単語は覚えません。じっくり読んでいくスタイルの読み方がボキャブラリを増やすという観点からは非常に効率が悪い方法であることが解ります。
実践例
現実と理論とはときに大きく乖離します。ほんとうに英検準2級レベルの単語力から英検1級の単語レベルに3か月で伸びるのか、現実にできなければ何の意味もありません。この方法は、極めて簡単で、理論的にも奇をてらったものではなく、非常に自然な覚え方なのですが、一番難しいところは、実践するかどうかというところです。大人の方は(私も含めて)ほとんど人の言う事を聞かないという傾向がありますので、このボキャブラリ増強法を体系的に指導したことはありません。英検3級を持つ中学2年生の子を教えたことがありますが、1週間に1冊指定の本を読んでもらい、読んだことを確認するために英語でサマリーを書いてもらい添削をするということを1年間(正確には8カ月弱)繰り返すと英検準2級を経て英検2級まで通りました。子供さんも必ずしも全ての子が指導に従うというわけではありませんが、一部の子は従うので子供は結果が出るようです。自分の場合の例でいえば、前のところで書いたように、普通の英語力だったと思いますが、また、当時は難しすぎる素材しか選べないという状況があり回り道をしましたが、 新聞でリーディングスピードを上げてからはほどなく英検1級に合格しました 。大人でもちゃんと「実践をすれば」効果がでるということのようです。
追記:その後いろいろな機会があり、TOEICその他の試験結果の実際でもかなり実績を積み重ねています。
辞書と遊ぶ
上で「辞書を使うな!」と題して述べたのは早いテンポで本を読み、ごく少数の未知の単語に遭遇した時にインファレンス(推定)しながら読み進めることによりボキャブラリーを増やしていく方法でお薦めのことなのですが、概していえば辞書はもちろん非常に役に立ちます。私が特に注目する辞書の使い方としては、時間が空いたときに辞書の適当なページをペラペラめくって 「重要単語」マークのついた単語を拾っていくこと 、また、何かの単語を引いたときに、 ついでにその前後に載っている「重要単語」も拾い読み して、辞書に親しみ、辞書と遊びながらボキャブラリを増やしていく方法です。
辞書で単語を覚えていく利点が2つあります。
ひとつめは、辞書はアルファベット順に並んでいるので、名詞、動詞、形容詞、など語幹を共有する異なる品詞の複数の単語を同時に覚えることができ、また、スペルが途中まで同一あるいは似ている単語を見ることで、単語が覚えやすいです。二つ目の利点としては、やはりアルファベット順に並んでいるために可能なことですが、接頭辞、語幹、接尾辞などの意味が自然に分かってくることです。たとえば、return, revenge, reverse, review, revive, rememberなどの単語の意味を見れば、re には再び、とか戻る、とかの意味を持つ接頭辞であることが自然に解ります。Predict, prejudice, premature などから、pre には前もって、事前に、とかの意味があることがわかり、また、そうであれば、dictionary, dictate との対比で dict は言葉や言うことに関する語幹であることがわかります。
話は少しそれますが、TOEIC試験では、inference (推定)の能力を重視する傾向があり、多くの受験者が知らないであろう単語も遠慮なくどんどん出てきます。このとき知らない単語の意味を推定する必要があるのですが、意味を推定するときにこれらの接頭辞、語幹、接尾辞などに関して知識が深いと推定の大きな手掛かりになり、非常に有利です。
このようにボキャブラリを増やすうえで辞書には非常に優れた点もありますので、どんどん辞書と遊んで楽しみながらボキャブラリを増やしましょう。
記憶のメカニズムを活用する
記憶をするのは頭脳なのですが、人間の頭脳の記憶のメカニズムは、コンピューターと似ているのではないかと思います。コンピューターはメモリで計算と一時記憶をし、ハードディスクで永久記憶をします。メモリは一時記憶なので、電源を消すと、その記憶は消滅してしまいます。ハードディスクに保存されたデータ(記憶)は、電源を消しても消えることはありません。 人間にもこれと同じように現在の活動に必要な記憶部分と、一旦覚えたら忘れない記憶部分がある ように思います。とすれば、ボキャブラリを増やすとは、どれだけ多くの単語を頭の「ハードディスク」の中に保存するか、という話になります。コンピュータであれば、「保存する(save)」のボタンを押せばそれでいいのですが、人間の頭には「保存する」のアイコン、あるいはスイッチはついていません。では、どういう基準を満たせば、人間の頭脳では単語を「セーブ」するのでしょうか?おそらく記憶のメカニズムを研究している研究者の方もたくさんいらっしゃるほどの複雑な科学的分野なのだと思いますが、ここでの議論は英語が主題なので、思いきり単純化した話で進めたいと思います。
鳥には「刷り込み」というものがあります。殻を割って出てきたときにはじめて見る動物を自分の母親とみなす本能です。ヒナは、自分でえさをとることができないので、生存本能に基づくものと思われます。記憶することも生存本能という観点から考えれば、記憶する物事は、自分の生存に必要だと頭が判断したものを順次覚えていくといえそうです。自分の生存にバイタルなもの、たとえば、母親の顔であるとか、食用になる植物(あるいは毒のあるもの)、天敵他自分の生命を脅かすものなど。経験的に言えることは、試験勉強などで「これは大事だぞ、絶対に覚えろ」といくら自分に言い聞かせても忘れるものは忘れてしまうものであり、逆に「こんなこと早く忘れてしまいたい」といって忘れるものでもなく、「覚えたい」「覚えたくない」という論理的考えとはあまり関係がないように思えます。
では、何が決め手になるかというと、(分かりやすいようにいろいろ考えられる要素をあえて割愛してひとことでいえば)それを「目にする頻度」です。頻繁に目にする情報はすなわち自分の生存に必要な情報であり、それはいつまでも一時記憶のままにしておくのではなく、永久記憶にセーブして、次回その情報があらわれたときにはディスクからすぐに取り出して対処する方が効率がよくなります。
したがって、単語を覚えるには、短期間のうちに繰り返し目にすること、自分の脳に「この情報は自分の生存にクリティカル、重要な情報である」という信号を送ってハードディスクにセーブしてもらうことです。
各セクション満点に向けて
リスニングパート満点(495点)のコツ
TOEIC満点(リスニングパート495点)へのリスニング
さて、リーディングスピードをあげ、インファランス(推定)読書法で単語数を増やしたら、TOEICリスニング満点に取り組みましょう。パート1、パート2は初級・中級レベルの受験者対応の問題です、ここはクリアしたとして話を進めましょう。先に述べたように、 パート1、パート2のディレクションの放送時間を活用して、すでにパート3とパート4の質問はあらかじめ読んでおきます 。パート3は2人の間の会話文、パート4は1人のスピーチが題材で、質問はともに3つづつです。題材が読まれたあとに、順番に41番、42番、43番、と質問に答えてください、と放送されるのですが、ここまで回答を遅らせてはいけません。なぜなら、質問文がただひとつではなく、また題材が一度しか読まれないので、題材を読んだあとに質問文をはじめて目にするようでは、すでに記憶があいまいになっており、正確に答えることができないものがでてきます。したがって、問題は、 必ず題材が読まれる前に先読みしておき、題材を聞いていて質問の答えが出てくるたびに回答を書いていきます 。こうすれば、題材が読み終わったときには、すでに3問とも回答がすべて終わっているので、質問のところが読まれている間は、次の題材の質問を読む時間にあてます。こうして、質問を前倒しに読んでいき、前に前に進めていかなければなりません。いったん質問を読むのが題材より遅れると、次から次に遅れていくことになりますので、 失敗した問題は切り捨てて、ペースを戻す勇気も必要です 。ここで消しゴムを2つ持ってきた意味もあります。消しゴムを落としても、拾ってはいけません。遅れがあとを引かないように、万一失敗しても迷った回答に必要以上に拘泥せず速やかに先に進み、質問の先読みを続けます。 TOEICは減点方式ではありませんので、全問正解でなくても満点がとれます 。
ちなみに、ボキャブラリ増強法で磨いたinference(推定)する能力は、TOEICで重視されている能力です。スピーカーがはっきりそうとはいっていないのですが、与えられた状況、データから当然そうと推定される結論を答えとして求める問題が非常に多いです。
リーディングパート満点(495点)のコツ
TOEIC満点(リーディングパート495点)へのリーディング
101番から140番までのパート5の問題は基礎問題で、比較的初級・中級受験者をターゲットにした問題です。文法問題が半分、単語問題が半分で、文法の知識自体は、分子構文と一部の仮定法などを除いてほとんど中学で履修した文法となっています。ただし、単語は中学レベルを超えたものが含まれているので、その基本的な文法事項を問うている問題であることを気付かないこともあるでしょう。140番から151番までのパート6の問題は、文章に組み込まれた文法、単語問題です。
TOEICが難しいといわれる方の多くが感じるのは、153番から200番までの読解問題の題材の量の多さです。読解問題の一部は、初級・中級受験者をターゲットにした問題ですが、ここからの多くは中級・上級者向けの問題になってきます。ここで、重要なのは、リーディングスピードです。上の練習をして、リーディングスピードを1分間300単語のスピードにした人には全く問題ありません。
分量が多いので、質問を先に読み、質問に聞かれた部分だけを拾い読みして回答するべし、と指南している指南書もたくさんあり、これには一理ありますが、この方法は、リーディングスピードが遅い方向けのバンドエイド的処方といえるでしょう。十分なリーディングスピードを持っていれば、オーソドックスにまず題材をざっと読み、質問をじっくり読み、質問の回答が含まれていたと思われるところに帰ってさらにじっくり読みなおして回答しても、200問まですべて余裕で回答することができます。題材を最初にざっと読むことには次のような利点があります。第1に、全体を見通すので、質問の意味が分かり易い。次に、全体を把握しているので見落としによる早合点が減る、というところです。質問を先に読み回答に必要な部分だけ拾い読みする方法に比べてかなり正解率が上がります。
また、トイックの初級、中級受験者を対象とした101番から152番までの問題の部分も同様の理由(時間の節約)で、問題の文章の全文を読まず、手がかりになる前後だけを読んで回答するように指南している本もありますが、そこまでする必要はありません。全文を読まずに回答できる問題が多くを占めているのは事実ですが、この部分は多くの受験者が正解を出すところだけに、 むしろじっくりと時間をかけて読んで、早とちりの回答をしないように万全の回答をしておきましょう 。101番から152番までの文章はもともと単語数は全部あわせても1000単語もないくらいの微量であり、通して読んでも全部で5分もかからない分量なのです。手がかりになる前後だけをよんで不必要なところを読み飛ばしたとしても第一さしたる時間の節約にはなりえません。153番以降の題材の量の多さの問題は、101番から152番の簡単なところで時間を圧縮するより、リーディングスピードを上げるというのが正攻法です。そして多くのものごとがそうであるように、ベストな結果を得るには正攻法しかないのです。 こて先の技術はすぐに足をひっぱるだけのものとなります 。
リーディングスピードが必要な理由としてトイックのリスニング問題での質問の先読みに必要という理由を述べましたが、リーディングスピードを早めることは、リーディング問題を全問回答する上でも重要な役割を果たします。
さらに、リスニングはほぼ自然のスピードで会話あるいはスピーチが進みますので、1分間300単語(少なくとも会話のスピードである1分間150単語から200単語以上)のペースで本が読めるだけのリーディングスピードがない人は、会話を聞いても、仮に耳が聞けたとしても、脳が「聞けない」という状態になります。会話のスピードで読み取りができない人は当然聞き取りもできないということになります。
まとめ
リーディングスピードがTOEIC990点の鍵!
英語はことばですから難しくありません。文法、といっても法律のように決まりごとがたくさん書かれているわけではなく、英語を使う人が誤解なく理解しあえるようにみんなで守っている使用法の決まりごとというだけのことで、難しい理論が含まれているわけではありません。たくさんの用例を目にしていけばおのずと自然に覚えていくものです。難しいところといえば、 自由に読めるようになるまで継続的に英語を読み続けることができるかどうか 、というところだと思います。そして、たいていの人が、それじゃおもしろくないでしょう、という非常に遅いスピードで英語に取り組んでいるのをいつも目にします。
スポーツであれ、勉強であれ、娯楽であれ、本能に逆らうことは長続きはしません。スポーツなど典型的だと思うのですが、練習はきついでしょうが、やはり根底には楽しさがあるから続けます。言葉は情報を伝え、情報を入手するためのものですから、その情報の伝達、入手が楽しくないのでは必ずいやになります。
TOEIC試験では上で述べたようにリーディングもリスニングもある程度のリーディングスピードと単語力が必要です。ひとことでいえば英語の運用能力ということになるのでしょうが、これを育てるにはある程度の時間を割く必要があります。 興味のある情報を含む本、新聞、雑誌を選び、あきあきしない適度なスピードで読むことをしばらく続けてボキャブラリを増やします 。余裕があればTOEIC受験の直前にはTOEIC 受験講習などを受講して練習問題に慣れておきましょう。
そしたら、最後のしめは、当日の態勢です。リスニングでこけないように、消しゴムを2つ用意して、トーイック試験の当日は質問を先読みできるように(リスニング問題の話です。リスニングとリーディング部分ではストラテジーが異なりますので)ディレクションの放送中にパート3とパート4の質問をがんがん読んでおきましょう。
PS:本記事はTOEICのメイン試験であるリスニングとライティングのセクションからなるいわゆるトーイックのみについて記述しており、追加モジュール(別の試験です)であるスピーキングとライティングについては記述しておりません。スピーキングやライティングについては別記事ですがIELTSやTOEFL、英検関連のところで具体的な作文例などとともに記事にしています。一例:英検2級ライティングなど。スピーキングやライティングに興味がある方はこちらも併せてごらんください。
追記(平成30年10月15日)
英語ライティングについての考察
本記事はTOEICの主流であるリーディングとリスニングのモジュールを扱ったものですが、追記として少しだけライティングについて考察したいと思います。
英語のライティングの練習はやってはいけない
これは逆説的な言明ですが、英語のライティングをうまくするには英語の作文をしてはいけません。
これには2つの主な理由があります。
1.作文をすることによって悪癖を学習する。
数学を勉強するときに、鉛筆をもってはいけません。つまり、数学(高校レベルの基礎的数学)を勉強するときに最も効率的な勉強法は、問題を読み、回答を「読み」、最も効率的な解答の仕方を知ることです。鉛筆を持って、自分で解こうとすると、自分流の誤った解法、あるいは遠回りの解法を時間をかけて行うために、結果として、時間を無駄にし、さらに誤った解答法を身に着けてしまいます。こうやって身についてしまった「癖」は矯正するのに非常に時間がかかります。これは英語の発音でも同じことですが、私たちの多くは誤った英語の発音を教わっており、それは矯正することがほとんど不可能です。へたな技術は覚えてはいけないのです。
同様に、へたな作文は誤った英語を覚えるだけなので、やってはいけないのです。
2.英語の作文は書くことによっては学習できない。
では英語の作文はどうやって覚えるのでしょうか?英語の作文は、英語の読書によって覚えます。従って、英語の作文をうまくするには、上手な英語の文章をたくさん読むことです。
英語は言葉ですから、自分の創作では正しい英語は作り出せません。言葉はすべて、他の人が使う言葉を真似て発展させるものです。多くの単語、フレーズ、文書を蓄えて、それらを駆使して自分のアイデアを表現できるようにするのが言葉ですから、作文をするには膨大な英語の文章の読書によってこれらを蓄積するしかありません。これらの蓄積なく英語を書くと、それはうその英語になりますから、うその英語を書けば書くほどへたくその技術を叩き込むことになります。矯正が難しい非常に困ったことになります。
理屈はそうとして、しかし現実的には試験で出題されれば英語のライティングはせざるを得ないのが現実です。その場合には、上記の原則を背景に、なるべく悪癖を覚え込まない方法で作文をするのが上策です。作文をするときに、自分の勝手な発案で文章を編み出すのではなく、過去にどこかで見知った確実な表現を使うことを旨とします。自分の英語を決して信用しない。一般に使用されている英語表現だけを信用して使用するのが正しい作文だと思います。
↓作文の一例(英検1級ベース)
PR:マイヤー英会話西新教室で「英語4技能」のクラスを開催します。2020年大学入試改革の一環としてセンター試験が廃止され、新しいシステムである大学入学共通テストに変わります。この中で英語の入学試験も大きな変更を加えられ、大幅な4技能化が導入されることになっています。2年後以降(2021年1月の共通テスト)の大学受験者を想定しています。ライティングとスピーキングにふったクラスです。
九大のAO試験を受験する生徒さんに合わせてサンプル問題について記述問題のサンプル回答を作りました。
⇒ 九大AO試験英語作文例
↓大学入試作文問題の一例(東京大学英語)
永江俊一
産業翻訳者(翻訳のサムライ)
東京大学経済学部卒
TOEIC990点、国連英検特A級、英検1級
福岡県福岡市西新4丁目